木目のピアノへの想い・・・

 初めてピアノを買ってもらったのは、私が小学校4年生の時でした。近所の音楽教室のグループレッスンに通っていたものの、家には電気オルガン(スイッチをプッチンと入れて音が出る、一段鍵盤のやつです)しかなく、歩いて10分ほどの従妹の家のピアノをしょっちゅう弾いていたのを見て、両親が、こりゃ買ってやらねばならないだろう・・・と一大決心で買ってくれたのです。
 
 その当時父は国鉄マン、3人の子供と住宅ローンを抱え、かなり生活は苦しかったようです。父は大のお酒好きですが、その当時は給料日の後10日間くらいしか晩酌ができなかった・・・と言っていたくらいですから・・・
 
  母は全くの素人ですが、「黒いピアノよりね、良い木が使ってあるような気がするよ。」と言って、木目のアップライトピアノを選んでくれました。黒よりは高かったようですが、どうせ買うのなら・・・と思ったのでしょか・・・
 優しい木目の、優しい音がするそのピアノ・・・私はそのピアノが本当に大好きでした。そして何よりの自慢でした。何かと姉のお古の多かった私ですが、これだけはぴかぴかの新品で、私だけのものでしたし・・・
 
  その後音楽高校に進み、つらかった大学受験も、ずっとそのピアノが支えてくれました。受験当日、緊張して全然思うように弾けず、「あんなに練習したのに・・・」とわんわん泣いたのも、そのピアノの蓋の上でした。
  そんな私の汗と涙がいっぱい詰まったピアノですが、大学に入った時、師事した先生の「ピアノ科の学生がアップライトじゃだめだよ。」の一言で、グランドピアノに買い換えることになりました。またまたこの時も、入学金とのダブルパンチで、両親はかなり大変なおもいをしたようですが・・・
 
  私の中で、ずっと最初の木目のピアノへの想いが残っており、今回新しいピアノも思い切って木目にしました。きっと年齢からしても、これが私が買う最後のピアノになるかなー、とも思いまして・・・
  形を変えて、あのピアノが帰ってきたような、そんなほっとしたような気持ちがしています。今度こそは、絶対絶対に手離さないでいようと思っています。
 
  生徒さんのご父兄の中に、少数ですが、「いつまで続くかわからないし・・・」と言って、ピアノをなかなか購入してくださらない方がいらっしゃいます。もらい物のエレクトーンや、キーボードで代用されています。
  タッチ機能のついていないエレクトーンやキーボードは、鍵盤部分が見た目似ているだけで、全くピアノとは違う楽器なのですよ、と言う説明をしても・・・だめです。もちろんそれぞれのご家庭の事情もありますから、そう何度も言うわけにもいかないのですが・・・
 
  何でもかんでも、子供に買い与えることが良いとは思っていませんが、ここぞと言うときには、見返りを求めない投資ができるのも、親だからこそ、と言う気もするのです。 私自身、あのピアノがなければ、今の自分は絶対になかったわけで・・・
  「続くわけない」とご両親に確信を持たれている子供たちは、やっぱり「続くわけない」・・・と思うのです。