たー君のレッスン・・・

たー君に初めて会ったのは、彼がまだ1歳にもならない頃・・・10年も前のことです。
お父さんのお仕事の都合で広島に引越してこられ、お姉さん2人がうちの教室に通うことになったことが彼との出会いでした。

たー君はダウン症の男の子です。

2人のお姉さん(特に今国立音大に行っている上のお姉さん)は「ピアノ命!」の子だったので、このたー君もピアノは大好き・・・ お姉ちゃんがピアノの練習を始めると、ピアノの下に潜りこんで聞くのが日課だそうです。

「お姉ちゃんが弾く曲がテレビから流れたりすると、もう部屋中を駈けまわって喜ぶんですよ・・・」と言うような話をお母さんからもよく伺っていました。
きっとお母さんは、たー君にもピアノをさせたいんだろうな・・・それを私は痛いほど感じていましたが、私から「たー君もピアノ始めてみませんか?」とは言えなかったんです。
それは私に障害者に対する知識がないから・・・どうしていいのかわからないから・・・それを勉強する時間もないから・・・(←これは言い訳・・・)


今回ピティナのワールドフェスティバルの中で、日本障害者ピアノ指導者研究会の子供達の演奏を聞くチャンスがありました。

涙がぽろぽろと流れ、止まりませんでした。
どうして?体が不自由なのにえらいなー、すごいなー・・・いいえ、違うんです。
ちょっとうまく言えないんだけど、そこにはとっても純粋で、美しい音楽があったんです。音楽をするべき子供達が音楽をしている・・・そう思いました。

指が何本か欠損している子、片手の手首から先、肘から先がない子供たち、知的障害の子供達、紐でくくってもらわなければ椅子に腰掛けていることもできない重度の身障の子・・・その子達が本当に懸命に、美しい音楽を奏でてくれました。

ピアノは健常で、指が10本ある子が弾くもの・・・これは大きな間違いでした。その子供達の素晴らしい演奏が、私にそれを気付かせてくれました。

今回一緒に8手連弾をした1人、中嶋先生も知的障害のある双子の子のレッスンをされていると言うことでした。そのダウン症の男の子の話をして、「私どうしていいのかわからないしねー」と話すと「普通の子と一緒でいいんですよ。」と言ってくれました。

目からウロコ・・・でした。
そうなんだ。普通でいいんだ。何を私は構えてたんだろう・・・

生徒の中にもいろんな子がいます。1つのことを1週間でできる子もいれば何ヶ月もかかる子もいる。それをちゃんとその子の物差しで、その子のペースで指導していく・・・これは私が1番大切にしていること、20年以上もやって来ていることじゃないか・・・

さっそく帰ってからたーくんのお母さんにお電話しました。ものすごく喜んでくださいました。ピアノはさせたくてしょうがなかった。でも、先生はお忙しいし、お願いしてもかえってご迷惑では、とずっと言い出せずにいました、とおっしゃいました。

思った通りでした。思い立ったら早いほうがいい!ってことであさってからスタートします。私も楽しみで楽しみでしょうがありません。

そのお母さんも「先生、たー君のピアノ、一緒に楽しんじゃいましょうね。」と言って下さっています。本当にそうです。多いに楽しませてもらいます!(2002年4月日記より)